Morisawa Type Design Competition 2014

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レポート:第3回タイプデザインコンペティション特別セミナー 「タイプデザイナーの視点」

2015年4月17日

本セミナーは2014年に行なわれた「タイプデザインコンペティション 2014」表彰式と合わせて行なわれ、文字や書体、フォントに興味を持つ多くの方に参加をいただきました。

セミナーには3組のタイプデザイナーが登壇し、書体制作の考え方や取組み方、制作のプロセスについて解説しました。 1つめのセッションは、「タイプデザインコンペティション 2014」で欧文部門審査員を務めた、アドビ システムズの山本太郎氏に、西塚涼子氏と服部正貴氏を加えた3名による「Pan CJK フォントの誕生」。Pan CJKフォントとは、C(Chinese)、J(Japanese)、K(Korean)をPan(汎)、つまりひとつのものとして考えることができるフォントという意味です。

アドビ システムズとグーグルにより共同開発されたPan CJK フォント「Source Han Sans」は、「日本語、中国語簡体字、中国語繁体字、ハングルという4つの言語をカバー」「4つの言語で一貫性のあるデザイン」「オープンソース」という特徴を持ち、日本では「源ノ角ゴシック」としても知られています。

各氏はこの書体が作られた経緯と目的(山本)、デザイン(西塚)、フォント制作のプロセス(服部)をスライドや動画を交えながら解説。言語の違いによって生じる些細な画線処理の違いも「言語の地域性を表現するための重要な要素」(服部)ととらえ、中国と韓国のフォントベンダーの協力も得ながら制作を進め、7つウエイトで合計458,745もの文字を作り上げました。オープンソースゆえにそれをもとに作られた派生フォントも登場しており、今後、さらにさまざまな場面で使われる可能性を感じることができるセッションでした。

2つめのセッションは、豊島晶(とよしま あき)氏による「私と書体、私の書体」。

豊島氏は、「すずむし」で「タイプデザインコンペティション 2012」和文部門モリサワ賞銅賞・明石賞・ファン投票1位のトリプル受賞を達成。「えんそく」で「タイプデザインコンペティション 2014」和文部門ファン投票2位を獲得しています。「すずむし」は2014年にモリサワからリリースされ、親しみのある表情で高い評価を得ています。

セッションは、コレクションや趣味といった自身の紹介から始まり、次第にタイポグラフィへの興味、タイプデザインへの取組み、これまで豊島氏が手がけてきた書体の紹介へと進み、話題は「すずむし」の制作プロセスへ。 「『すずむし』は落語の世界観を表現した書体です。下町の風景や、人情的であたたかみのあるひとたちの日常……そんなイメージを寄席文字や勘亭流ではなく、もっとポップでかわいらしい文字で表現できないかと思って制作しました」(豊島)

豊島氏は自身のノートを映しながら、「(書体制作にあたって)こんな雰囲気というメモやラフをノートに書き留めるものの、具体的なスケッチは描きません」と話し、頭の中のイメージをもとに漢字もひらがなもすべてMac上で作ること、漢字を先に作りイメージを頭に入れてからひらがなを作ると心地いいものになることなど、書体作りの持論を紹介しました。

豊島氏は最後に「すずむし」がカフェで作業をしながら制作されたことに触れて、「文字は気楽に、誰にでも文字は作れるんです。知識も技術も重要になりますが、ファーストステップとして、いまの状態で試しに作ってみてもいい。ゼロに近い状態でしか作れない文字もありますし、それは貴重な、新しい書体が生まれるチャンス。必要なのは、こういうものが作りたいという創造力と、やってみようという行動力、そして少しの忍耐力だと思います」と話し、セッションの幕を閉じました。

最後のセッションは、「タイプデザインコンペティション 2014」で和文部門審査員を務めた字游工房の鳥海修氏による「書体をつくるうえで大切なこと」。

 

鳥海氏は冒頭で「今日は“ハートで作る”という話をしたいと思います」と切り出し、京都精華大学での7年間にわたる講義の中で作られた書体について話を始めました。紹介されたのは、クリームシチューの食材に墨をつけ、さまざまな紙に描いた文字をもとに制作した「クリームシチュー」、良寛の『愛語』をもとに制作された「おやすみ良寛」、古典の書をもとに作られた「おかあさん」の3書体。鳥海氏は、「おかあさん」制作チームリーダーの「(書体が)完成したときは自分の子どものように思った」という言葉を紹介すると、「この感覚が学生に一番感じてほしい気持ちなんです。“手で作る”というのはそういうことなんだ」と喜びを交えて話しました。

鳥海氏は話の最後に「ハートで作る」ということについて「タイプデザインまたは文字は、手で描くということがとても重要だと思う。手と心はつながっているし、心の震えが手に現われます。コンピュータが便利になっても、直線が簡単にひけても、きれいな曲線が簡単にひけても、手で描くというのが前提にあるからきれいにひけるんです。ぜひとも手で描いた書体で『タイプデザインコンペティション 2016』に応募してほしい」と次回の「タイプデザインコンペティション」への期待を語り、話を終えました。

2012年、2014年と2年ごとに開催されてきたモリサワ「タイプデザインコンペティション」。次回は2016年の開催を予定していることが司会からもアナウンスされ、タイプデザインコンペティション特別セミナー「タイプデザイナーの視点」は幕を閉じました。