2018年8月28日、東京国際フォーラムにおいて株式会社モリサワ主催「第6回タイプデザインコンペティション特別セミナー」が開催された。
このセミナーは「タイプデザインコンペティション 2019」の作品募集開始に先立ち行われたもので、欧文部門審査員でタイプデザイナーのサイラス・ハイスミス氏の講演、和文部門審査員で書体設計士の鳥海修氏と過去のコンペティション入賞者との対談、そして最後に文字の使い手として、アートディレクターの葛西薫氏が登壇した。
特別対談「文字がフォントになる瞬間」
続くセッションでは、司会の字游工房の鳥海修氏が過去のタイプデザインコンペティション受賞者に、フォント製品化への道のりについてを聞く対談。井口博文・北原美麗の両氏(2014年度/和文部門明石賞)は『錦麗行書』、浪本浩一氏(2014年度/欧文部門明石賞)は『Rocio(ロシオ)』が、それぞれ2016年にモリサワよりリリースされている。
『錦麗行書』は、書家である北原氏による揮毫を活かして作られた書体だ。原型となった応募作品である北原行書の線ののびやかさや優美な形を損なわないよう、ひと文字ずつていねいに井口氏がアウトラインデータにした共同作業のたまものである。コンペティションで受賞が決まったときには、2人とも嬉しくて楽しくてパーティを開き盛り上がったのだそう。しかし、いざ製品化となると必要とされる文字種の数の多さが肩にのしかかり、後半は特にデータ作成役の井口氏が納期に追われるあまり、受賞を恨めしく思ったことも……。しかしリリース後に、実際にポスターや週刊誌などに自分の書体が使われているのを見つけると、やはり感無量とのことであった。
浪本氏の『Rocio』は、もともと『わかつき丸ゴシック(2014年度/モリサワ賞和文部門金賞)』に組み合わせるために制作したもの。線端にカリグラフィのような丸みの装飾がある、柔らかくかわいらしい書体だ。スペイン語で「雫」を意味するフォント名が付けられた。鳥海氏から書体制作に関わるようになったきっかけを尋ねられると、「デザイナーであった父親に自分の名前を写植で打ち出してもらって嬉しかった」という思い出が披露された。
「日本人が欧文をデザインすることへのハードルは?」という質問には、確かにそのハードルは少なからず感じたが、和文も欧文も広く考えれば同じ「文字」。日本人が作ってもいいじゃないか? と開き直ってデザインしたとの答え。コンペティションは挑戦の場でもあるので、これから応募を検討する人も、自分で枠を作ることなく、自由にやってみたらいいのではないかと思う、とのことであった。
〈文●伊達千代(TART DESIGN OFFICE) 写真●弘田充〉