タイプデザインコンペティション 2019

審査員紹介

和文部門

和文部門 鳥海 修

鳥海 修

タイプデザイナー

メッセージ/プロフィール

書体の使用領域はますます多様化してきて、一つの書体で多くを賄うような時代ではなくなった感があります。これからは明確なコンセプトを立て、その目的に最適化した書体が求められるのではないでしょうか。どこで使うのか、何に使うのか、どんな言葉を、どんな表情で語るのか。そこに至る手法はさまざまで、情緒的に処理することもよし、しっかりとした設計思想に基づいて作り上げるのもよし、ただ大事なことは文字は右手の軌跡だということを忘れてはいけません。見飽きない素敵な作品を期待します。

プロフィール

1955年山形県生まれ。多摩美術大学GD科卒業。1979年株式会社写研入社。1989年に有限会社字游工房を鈴木勉、片田啓一の3名で設立。現在、同社代表取締役であり書体設計士。株式会社SCREENホールディングスの「ヒラギノ」シリーズ、「こぶりなゴシック」などを委託制作。一方で自社ブランドとして游書体ライブラリーの「游明朝体」、「游ゴシック体」など、ベーシック書体を中心に100書体以上の書体開発に携わる。2002年に第一回佐藤敬之輔顕彰、ヒラギノシリーズで2005年グッドデザイン賞、 2008東京TDC タイプデザイン賞を受賞。京都精華大学客員教授。著書に『文字を作る仕事』(晶文社刊、日本エッセイスト・クラブ賞受賞)がある。

和文部門 西塚 涼子

西塚 涼子

アドビ システムズ 株式会社

Typekit、日本語タイポグラフィー、チーフタイプフェイスデザイナー

メッセージ/プロフィール

活字のように劣化しないデジタルフォントが多く生まれている時代だからこそ、デザインの価値をどこに見出すかが重要になってくると思います。鉛を彫ることがなくなり、墨を擦ることが減った今は、手軽にフォントができると考えるのではなく、昔のデザイナーや職人がした苦労と同等の価値をどこに見出すかが勝負です。アイディア次第でそれを凌駕してしまうこともあるでしょうし、価値は一つだけではありません。文字を囲む枠は向き合えば向き合うほど広く深く迷います。そう見えるようになったら良いものが生まれる兆し!たくさん試行錯誤してチャレンジしてください。その使った時間と努力は間違いなくデザインに現れます。魅力的な作品を楽しみにしています。

プロフィール

1972年、福島県生まれ。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科を卒業。
1997年にアドビシステムズに入社し、小塚昌彦氏指揮のもと、「小塚明朝」「小塚ゴシック」の開発に携わる。その後、アドビオリジナルかな書体「りょう」および「りょうゴシック」ファミリー、フルプロポーショナルかな書体「かづらき」「源ノ角ゴシック(Source Han Sans/Noto Sans CJK)」「源ノ明朝(Source Han Serif/Noto Serif CJK) 」、「貂明朝」をリリース。モリサワ国際タイプフェイスコンテスト、NY TDC審査員賞など多数受賞。 

和文部門 廣村 正彰

廣村 正彰

グラフィックデザイナー

メッセージ/プロフィール

デジタルフォントに見慣れて使い慣れたこの頃、活字で印刷されたモノに出会うと心が少し高揚する。それは文字の成り立ちや作り方にも関係していると思うが、視覚体験だけではない感覚を呼び起こしてくれるのではないだろうか。金属と紙が触れてエッジが毛羽立つ感じやそれを指がなぞる感覚が他の感覚、聴覚や味覚なども刺激しているような気がする。
高品質なフォントがたくさんある中、新しいフォントは視覚以外の感覚も誘発するような造形の可能性を探るのも良いかもしれない。新鮮な感覚の書体に期待したい。

プロフィール

愛知県生まれ。田中一光デザイン室を経て、1988年廣村デザイン事務所設立。グラフィックデザイン、アートディレクションの他、商業施設や美術館などのサインデザイン、CI、VI計画も多く手がける。多摩美術大学客員教授、一般社団法人ジャパンクリエイティブ代表理事。主な受賞歴、毎日デザイン賞、KU/KAN賞、SDA大賞、グッドデザイン金賞ほか。主な著作に『デザインのできること デザインのすべきこと』(ADP)、『字本 JI BORN』(ADP)、『デザインからデザインまで』(ADP)など。

www.hiromuradesign.com

和文部門 北川 一成

北川 一成

GRAPH代表取締役

メッセージ/プロフィール

私が好きな書体は、2つの方向があります。
1つは、いっけん普通のような書体で、でも細部に神が宿るとでも表現すべき、一工夫こだわりが感じられる、見飽きのこない造形の仕事が施してあり、かつ、読みやすい書体が好きだ。
2つめは、これはいったい作者の発想はどうなっているのかしら???と私がびっくりしてしまうが、しかし制作において根底に極めて高度で知的な思考がかいま見れるアバンギャルドで挑戦的な独創性をもつ書体が好きだ。
これらの2つの方向は、外見こそ違えど、以下2つの共通した視点で制作されるであろうと予想する。
先ずは、歴史を俯瞰的にとらえられる視点。次に「私には知らないことがある」という視点、すなわち科学的な思考を巡らせることができる視点だ。

プロフィール

GRAPH代表取締役。1965年兵庫県加西市生まれ。 1987年筑波大学卒業。 
AGI(国際グラフィック連盟)会員。NY ADC、D&AD Awardsの審査員を務める。TDC賞、JAGDA新人賞など受賞多数。 
“捨てられない印刷物”を目指す技術の追求と、経営者とデザイナー双方の視点に立った“経営資源としてのデザインの在り方”の提案により、地域の中小企業から海外の著名高級ブランドまで多くのクライアントから支持を得る。2016年冬、ネーミング、ブランディングを担当した「変なホテル」が「初めてロボットがスタッフとして働いたホテル」としてギネス世界記録に認定される。 
出演にテレビ東京『カンブリア宮殿』、NHK『ビジネス新伝説 ルソンの壷』他多数。(写真:新津保建秀)

欧文部門

欧文部門 サイラス・ハイスミス

サイラス・ハイスミス

タイプデザイナー

メッセージ/プロフィール

このコンペティションに一度も応募しなかったことを後悔しています。学生の時にコンペティションのことを耳にしたことは覚えていますが、応募するのを躊躇してしまいました。
学生時代の私の作品が受賞することはなかったとは思います。ですが、応募することでより一生懸命取り組み、大胆な作品に挑戦したり、新しいことを始めるきっかけになっていたかもしれません。わかりませんけれど。このコンペティションは私がつかまなかった機会です。
私の経験からお話しますと、審査員は全ての応募作品を審査する時間をとります。さらに、今回は新鮮なエネルギー、多様な経験、たくさんの力強い意見を持ち合わせた新しい審査員グループで審査いたします。大阪での審査会にて審査員全員が顔を合わせる数日間は刺激的で活発なタイポグラフィーに満ち溢れたものになるでしょう。
学生、プロにかかわらず、私と同じ過ちをしないでください。モリサワタイプデザインコンペティションに応募しましょう!皆様の書体を目にすることを楽しみにしています。伝統的、思考的、セリフ、サンセリフ、テキスト、ディスプレイ、ファミリー数の多い書体、シングルスタイルなど、全て歓迎します。

プロフィール

タイプデザイナー、教師、著者、グラフィックアーティスト。自身のタイプファウンドリであるOccupant Fontsには自身のオリジナル書体が多数搭載されている。ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(RISD)でタイポグラフィーを教える。著書であり、高い評価を得た入門書『Inside Paragraphs: Typographic Fundamentals』ではイラストも手がけている。2015年、書体デザイン、タイポグラフィー、書体教育の分野における高い貢献が評価され、ゲリット・ノルツィ賞を受賞。2017年、Morisawa USAの欧文書体開発のクリエイティブディレクターに就任。

欧文部門 イリヤ・ルーデラマン

イリヤ・ルーデラマン

タイプデザイナー

メッセージ/プロフィール

タイプデザインはとても特殊な分野ですが、実は魅惑的でもあります。
スケールの大きな字体と輪郭がたったのワンクリックで、私の本文書体に変換したことに純粋な喜びを感じたことを覚えています。また、キーボードのキーを押しただけで命を吹き込むことができるのです。このなんだか子供のような感覚を今でも時折感じます。
この数年間、私はタイプデザインに熱意を持ったたくさんの若いデザイナーに会いました。タイプ業界は成長しており、また年齢層が若くなっています。それは素晴らしいことです。だからこそ、モリサワタイプデザインコンペティションのようなイベントは重要であり、またあるべきものなのです。
モリサワタイプデザインコンペティションはこの業界におけるとてもユニークなイベントです。また、厳しいコンペティションを通してみなさんの真のポテンシャルを見る機会でもあり、プロフェッショナルなレベルに進む大事な機会でもあります。この機会を逃さないように!

プロフィール

モスクワ在住。タイプおよびグラフィックデザイナー。教師。モスクワ州立大学で印刷美術を学び2002年卒業。Alexander Tarbeevの指導の下、卒業制作に取り組む。2005年、ハーグのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツのタイプ&メディアプログラムにてタイプデザインの修士号を取得。プログラム修了後、モスクワに戻り多数のメディアと協働。関わったメディアには、Kommersant、Afisha、 Moskovskiye Novosti、 Bolshoi Gorod、Men’s Health Russiaがある。2005〜2007年にはAfishaのシティガイドブックのアート・ディレクターを務め、その後ニュースエージェント、RIA-Novostiのアート・ディレクターを数年間務めた。2007年よりモスクワのBritish Higher School of Art and Designのタイプおよびタイポグラフィのカリキュラムを監督。2008年よりキリル文字のコンサルタントとして精力的に活動。2014年、Yury Ostromentsky氏とCSTM Fontsを設立。

イリヤ・ルーデラマン作の書体:BigCity Grotesque Pro、Kazimir, Permian (ペルミ市のための書体ブランド) 、 キリル文字版の以下書体:Austin、Dala Floda、Graphik, Marlene、MoMA Sans、Typonine Sans、Thema.

欧文部門 インドラ・クッファーシュミット

インドラ・クッファーシュミット

タイポグラファー

メッセージ/プロフィール

長年にわたり、モリサワのタイプデザインコンペティションを追ってきました。この分野における最も名高い賞だと思います。1990年代、このコンペティションが私にとっての現代タイプデザインへの導入であり、私が注目しておきたいと思うデザイナーたちの名前を覚えたものです。コンペティションに関わることで皆さんのキャリアが変わるきっかけやモチベーションとなる大きな道しるべとなることができます。コンペティションは新しいデザインに挑戦する実験の場でもあり、興味深い歴史を追求する場ともなるでしょう。皆さまの作品の提出を心待ちにしております。

プロフィール

フリーランスタイポグラファー。ドイツHBKsaar、University of Arts Saarbrücken教授。タイポグラフィーおよび情報デザインを教えている。Bauhaus-University Weimarにて視覚伝達を学んだ後、オランダにてフレッド・スマイヤーズに従事する。その後、書籍タイポグラフィーと消費者製品インターフェース向けビットマップフォントを中心とした自身のスタジオを設立。 
デザイナーおよび研究者として、アナログフォント、デジタルフォント、タイプとテクノロジーの歴史、書体の分類、用語、視認性とタイプに関するDIN委員会、木活字、これらの組み合わせなど、全ての形とタイプに20年以上大きな関心を持っている。 “Helvetica Forever”やタイポグラフィック関連書籍の共著者。様々な出版物、ウェブサイト、タイプおよびデザイン業界に貢献。また、フォントの選択に関するコンサルタントも行う。2015年にalphabettes.orgを設立し、タイプ分野の専門家や世界中のコミュニティ先駆者を呼び集めている。

欧文部門 ラウラ・ミセゲル

ラウラ・ミセゲル

タイプデザイナー

メッセージ/プロフィール

世界にあなたの才能を披露する機会を見逃さないよう、ぜひあなたの書体を応募してください。とても大変ですがこれはあなたの一部ですからやりがいのある取り組みでしょう。機能性、個性、巧みなデザイン、言葉と感情を同時に伝えられる良い書体に求められる全ての品質の観点で、応募作品の中からあなたの作品が選ばれることを期待しています。

プロフィール

バルセロナ出身。フリーランスで活動するタイプおよびグラフィックデザイナー。彼女のスタジオは、国内外のクライアントを持ち、彼女自ら始めたプロジェクトにも携わる。2003〜2004年には通常の業務を1年間休止し、オランダ、ハーグのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツにてタイプ&メディアの大学院課程に入学。自身のファウンダリであるType-Ø-Tonesを通じて、自身のタイプデザインのリリースおよびプロモーションを行なっている。教育活動、講演、ワークショップなどを行なっている。 
タイポグラファーそしてタイプデザイナーとして、カスタムレタリンやタイプデザイン、ブランディングと出版デザインなどあらゆるプロジェクトを専門に取り組む。個人的な活動では、周囲からインスピレーションを得て、タイプとレタリングの自分のビジョンを混ぜ合わせ、字形の表現力を探求するプロジェクトに焦点を置いている。

著書『TypoMag. Typography in Magazines』(IndexBook出版)。共著『Cómo crear tipografías. Del boceto a la pantalla』(Tipo eよりスペイン語で出版。ポーランド語、ポルトガル語、英語、中国語に訳されている)。Khatt財団のMaghribプロジェクトのTypographic Matchmakingの一環として、Kristyan SarkisとJuan Luis Blancoと共にプロジェクトを展開し、マルチスクリプト書体ファミリーのQandusを設計し、TDC 2017 Awardを受賞。
www.laurameseguer.com

特別審査員

特別審査員 マシュー・カーター

マシュー・カーター

タイプデザイナー

メッセージ/プロフィール

2016年に開催された前回のタイプデザインコンペティションでは前々回の倍以上の応募がありました。このような素晴らしい反響を受け、多種多様のスタイルが入賞作品として選ばれました。これは現代のタイプデザインの健全性を映し出していると言えるでしょう。また、学生や最近の卒業生からの応募が多く寄せられました。教育現場において書体デザイン教育の意欲が高まっていることの表れであり、欧文部門の審査員にとってはとても喜ばしいことでした。和文部門においても同じように関心が高まっており、カリグラフィーへの注目が集まっています。
 私自身のこのコンペティションへの関わりは1992年に遡ります。モリサワが著名なタイプデザイナーおよび新人タイプデザイナーの最も優れた作品を賛賞し時代の最先端を絶えず前進させるにつれ、コンペティションの知名度も国際的に上がってきています。あらゆるレベルの経験を積んだデザイナーたちが2016年の結果から刺激を受け、次回のコンペティションではさらに多くの応募が寄せられることでしょう。
これまでのコンペティションでは、入賞作品の選定という難しい任務を担う各部門の4名の審査員について、新鮮な視点を取り入れるためにメンバーを入替えてきました。今回、4名中3名が新たな審査員として選出されています。新しい審査員の皆さんにも、私やこれまでの審査員仲間たちがこの特別なイベントでいつも感じる幸せな満足感を味わって頂きたいと思います。

プロフィール

タイプデザイナーであるマシュー・カーターは、この50年間、 それぞれの時代に進化する文字生成技術を駆使して手彫りの活版文字からコンピュータフォントまでの書体をデザインしている。 ライノタイプ社と長年に亘る取り組みの後、1981年にデジタルフォント制作のビットストリーム社を共同で立ち上げ、10年後にシャリー・コーンと共同経営の カーター&コーン・タイプ社(マサチューセッツ州ケンブリッジ)をスタート、社長に就任、現在に至る。オリジナル書体開発のデザイナー及びプロデューサー。
ITC Galliard、Snell Roundhand、Shelley scripts、Helvetica Compressed、Olympian(新聞用書体)、Bell Centennial(アメリカの電話帳用)、ITC Charter、ギリシャ文字、ヘブライ文字、キリル文字、デバナーガリ文字などの書体をデザイン。カーター&コーン・タイプ社設立後は、Mantinia、Sophia、Elephant、Big Caslon、Alisal 、 Miller などの書体を手がけている。
2011年にはモノタイプ・イメージング社から Carter Sans をリリースした。
カーター&コーン・タイプ社は、『タイム』『ニューズウイーク』『ワイアード』『USニューズ&ワールドレポート』『スポーツ・イラストレイテッド』『ワシントンポスト』『ボストングローブ』『フィラデルフィアインクワイヤー』『ニューヨークタイムズ』『ビジネスウィーク』『ルモンド』などの新聞や雑誌に加え、ウォーカー・アートセンター、MOMA、イェール大学、ハミルトン・ウッドタイプ・ミュージアムの書体デザインを委託制作。
90年代の中頃から、マイクロソフト社のスクリーンフォントシリーズのデザインに取り組み、コンピュータのモニター上で出来る限り読み易さを追求した書体開発を行った。その中で、Verdana、Tahoma、Nina(携帯デバイス用圧縮書体)はサンセリフ、Georgia はセリフ書体である。
ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリーの一人であり、アートディレクターズクラブ(NY)の殿堂入りを果たした。イェール大学グラフィックデザイン科上級講師も長年に亘って務める。クライスラー賞、AIGA 金賞、タイプディレクターズクラブ金賞、マッカーサーフェロー賞に加え、2011年には、スミソニアン・クーパー・ヒューイット国立デザインミュージアムから今までのデザイン界への貢献を讃え、ナショナルデザイン賞の栄えある特別賞を受賞。