株式会社モリサワは、2017年5月11日(木)、第5回特別セミナー「グローバル・タイプデザイン」をUDXシアター(東京・秋葉原)にて開催しました。
このセミナーは「タイプデザインコンペティション 2016」表彰式と同日・同会場で行なわれたもので、「グローバル・タイプデザイン」という共通テーマのもとに、日本、台湾、中国、韓国、アメリカの代表的な書体メーカが集結。日本語、中国語簡体字、中国語繁体字、韓国語、欧文という5つの文字・言語について、最新のフォント事情や技術的な取り組みをおよそ2時間に渡って紹介しました。
1つめのセッションは「日本語」。プレゼンターを務めた株式会社モリサワ 代表取締役森澤彰彦は、話の冒頭、日本語を「漢字、ひらがな、カタカナのほか、ローマ字、アラビア数字も利用する、言わば複数の言語を1つの言語内で操る、特殊な言語」と位置づけ、Adobe-Japan1-6に準拠した日本語フォントでは23,058もの文字(グリフ)を作る必要があることを説明。モリサワフォントとしてリリースされているベーシックな明朝体とゴシック体の多くは、このAdobe-Japan1-6に準拠する仕様で作られていることを伝えると、その膨大な文字をどのように作っているのか、フォント制作ワークフローの説明へと話題を移しました。
「フォントは、基本デザイン、拡張、検証、デジタル化という4つのパートによって制作されています。まずはじめにデザインのコンセプトに基づいて、ひとりのデザイナーが主要500文字を書き上げます。この500文字には文字を構成するさまざまなエレメント・パーツが含まれており、これが基本デザインとなります。次にこのデザインをもとにAdobe-Japan1-6であれば23,058文字に拡張します。すべての文字を書き終わったらフォント制作は終わり……ということはなく、重要なのはむしろこれからです」
作られた文字に対しては数万パターンもの組版テストや文字の黒みのチェック・検証が行なわれ、わずかな調整を幾度も繰り返してはデザインの質を高めていく。その一例として、手書きのスケッチや検証を繰り返した出力の束など、フォント制作の舞台裏が写真とともに紹介されました。
そして、過去のタイプデザインコンペティションにおいて明石賞を受賞し、モリサワフォントとしてリリースされた書体の紹介と多言語フォントへの取り組みについて触れ、最後に人工知能によるタイプデザインの話題へ。「私たちはいま、人工知能、つまりAIを書体のデザインに応用するための基礎研究を行なっています。文字を作る上で一番負担のかかる文字種の拡張作業を効率化AIによって効率化できないかと考えています」
さらにこの応用として明朝体のデザインをもとにAIで作ったゴシック体のデッサンを披露。未来のフォント制作の可能性を示し、セッションの幕を閉じました。
2つめのセッションは「中国語繁体字」。プレゼンターは、台湾・ARPHIC TECHNOLOGY CO., LTD. 董事長 楊淑慧氏が務めました(以降ARPHICと省略)。
セッションはまず中国語が使われる地域や人数についての説明からスタート。全世界でおよそ14.5億人が中国語を使うこと、日本語同様、漢字や記号だけではなくローマ字やアラビア数字も使うこと、そして戸籍や人名、地名に使われる文字をまとめた規格「CNS11643」には計108,007文字が含まれることに触れ、そうした膨大な数の文字を効率よく作る方法として、ARPHIC独自の文字作成ツールによるフォント制作の流れを映像で紹介しました。
映像はARPHICの明朝系繁体字フォント「AR書苑宋体Heavy」を例に、基本的なストロークをモジュール化して他の文字に展開していく様子から始まり、横画の太さを変更した場合のデザインの検証を経て「AR書苑宋体Heavy」から「Medium」を作る流れを紹介。さらに「Heavy」と「Medium」から「DemiBold」「Bold」「ExtraBold」の3ウエイトを補間によって作成する様子が解説とともに映し出されました。
次に紹介したのは、グローバル化のニーズに応える書体として作られた「UD晶熙ゴシック体」。36万字を収録し、70カ国語に対応するこの書体はスクリーン用と印刷用それぞれが用意されており、クライストチャーチで起きた地震の記念碑や、キャセイパシフィック航空、HP、Intelなどで多言語展開のために使われていると説明を加えました。
セッションの最後には「AR書苑宋体」を例にバリアブルフォントを紹介。「ウエイト(縦画の太さ)」「横画の太さ」「視覚的な大きさ(テキスト向け/ディスプレイ向け)」という3つの軸を変化させることで、2つのフォントから3次元的なフォントバリエーションを補完によって生み出せると解説し、太さが変化していく文字の様子を映像的に提示しました。そして横画の太さが調整できることによって、さまざまな解像度のスクリーンにも適応することができると解説を加え、セッションを終えました。