審査員の皆様からのメッセージをご紹介します。和文部門の審査員の4名です。
(敬称略)
小塚昌彦
モリサワのタイプフェイスコンテストが再開される。こんな嬉しいことはない。
前シリーズが主として20世紀末にあったことを考えるとき、新世紀にある今日はまさに文字、タイポグラフィを取り巻く環境も大きく変革している。活字、写植などを経てメディアの変化にとどまらず、ヴィジュアルコミュニケーションの手段は紙媒体を超えて映像の領域にはいっている。また身近なことでいえばフォントをユーザー自身が選択できる環境が整ったといえるのではないか。フォントに関心を持つ人が多くなったのも事実だが、同時にそのニーズに本当に応えなければならない時代になったといえよう。
フォントのデザインで最も大切なことは、用紙の枠内で「1文字」のデザインが完結しないこと、つまり平かなでいえば48文字が響きあうようなデザインが求められるのだ。特に初めて取り組まれる方にも楽しんで応募していただくことを期待したい。
鳥海修
活字は文化の礎です。3・11を契機とした生活環境の変化に伴い、言葉やコミュニケーションの有様も変化するものと考えます。こうした状況下、PCの発達やグローバルな世界観などを背景に、活字はどのように変容するのか。私は新しい世界観を持った新しい時代の、肝のすわった活字が見てみたい。そして願わくば次の100年を担う本文用書体がこのコンテストをきっかけに誕生するとしたらどんなに嬉しいことだろうか。
永原康史
人間は国や地域を問わず言葉を使ってコミュニケーションするが、文字は後天的なもので、すべての人びとが読み書きできるわけではない。統計局発表のユネスコの調査をみると、識字率がようやく5割を超える国も少なくない。世界全体で平均すると10人のうち3~4人は文字によるコミュニケーションができないと考えていい。さらに文字のかたちに込められた微細な差異から何かを読み取れる人は、その1割程度と考えればいいだろうか。
私たち、文字を扱う専門家は、そういった限定された知性にだけアプローチしていることになる。もっとその敷居を下げる努力をするのか、それとも、さらに少数の人びとに深く刺さるメッセージを送るのか。どちらにしても、これまでの常識にあてはまらない、文字の枠組みをひろげるような書体の出現が待たれている。期待しています。
原研哉
このコンテストが再開されると聞いて、実に時宜を得た出来事だと感じました。オンスクリーンにおける文字の再現環境は飛躍的に向上し、クラウドサービスによるタイプフェイスの利用も可能になった環境において、タイポグラフィの可能性が再び広がっていきそうです。情報の流れが国を飛び越え拡大していくなかで、文字は新たな進化を見せるに違いありません。最近、自分でもタイプフェイスをひとつ完成させてみようと試みているところです。そういう意味でもこのコンテストは実に楽しみです。国を越えて充実した作品が集まることを期待しています。
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