株式会社モリサワは、第4回タイプデザインコンペティション特別セミナー「タイプデザイナーの視点」を2016年2月17日(水)、東京国際フォーラム ホールD7(東京・有楽町)にて開催しました。
このセミナーは、世界各国から創造性あふれる書体を募る「タイプデザインコンペティション 2016」の開催を記念して実施するもので、文字や書体、フォントに興味を持つ多くの方に参加をいただきました。
セミナーには3名のタイプデザイナー、グラフィックデザイナーが登壇し、書体制作のプロセスや取組み方、文字組の考え方について解説しました。
「タイプデザイナーの視点」の2つめのセッションは、竹下直幸氏による「私と文字」。
竹下氏は、モリサワでの勤務を経てタケノコ・デザインルーム設立し、1993年にはモリサワタイプフェイスコンテストで銀賞を受賞。モリサワフォント「竹」や、「イワタUD新聞明朝」「みんなの文字」などを手がけるタイプデザイナーです。
セッションは「私と文字/竹下直幸」と手書きしたセミナータイトルのスライドから始まり、続いて「硬筆」「レタリング」「活版印刷」「街」という4つのテーマを提示。これを順に解説していくかたちで進みました。
ひとつめのテーマ「硬筆」では、「毛筆、つまり筆で書くことと対極にある言葉ですね」と話を切り出し、自身が小学生の頃に書き上げた硬筆の文字や中学生時代のペンで描かれた作品を映し出しました。その文字は毎年硬筆展に出品されるほどで、「私はずっと学年の代表として文字を書かなければいけない立場にありました。ですから、その頃から私は“文字に向き合わないといけない”という体験をしていました。私が文字をデザインすることになったおおもとの根本にあるのが、この体験ではないかと思います」と文字と関わる原体験を述べました。
2つ目のテーマ「レタリング」は、多摩美術大学での授業の話を中心に展開。氏が大学に在籍していた1980年代から1990年代はじめの頃はコンピュータが導入される直前。ほとんどのものを手で書いていた時代であり、レタリングはグラフィックデザイン科の必須の授業だったそうです。スクリーンに当時課題で描いていたレタリングの作品を映しては解説をしていき、「この後、専門課程でタイポグラフィを選択したのですが、そこでこうした職業があることを知り、モリサワに就職することになりました」と話し、文字を仕事にすることになったきっかけを紹介しました。
3つ目のテーマは「活版印刷」。印刷博物館内にある活版印刷工房の会員になっている竹下氏は、活版印刷でつくられたさまざまな作品を紹介。自身の名前をベタ組みにしたものと、一字アキで組んだものを並べて見せると、「なんかおかしくありませんか? 1文字ずつ空いているにも関わらず、均等に見えないんですよ」と疑問を投げかけました。
そして、「下」の文字は左側が空いており、「直」の文字は右側が空いているため、組んだ時に「竹」と「下」の間は空いて見える一方で、「下」と「直」の間がせまく見えてしまう、とその理由を解説し、見た目で均等に見えるように調整をした名前を紹介しました。
最後のテーマ「街」では、竹下氏が2006年から1年間続けたブログ「街で見かけた書体」を紹介。当時、記録した風景が現在、どの程度のこっているかを調べたところ、およそ8割はなくなっていたそうです。これに対し、氏は「もっとなくなってるんじゃないかという予想だったんですけど結構残っているなと思いました。個性が強くて、キャラクターが立っている文字は残るんですね」と評価しました。続いて、「明らかに特徴的な書体が集まっている街」として、江戸文字が多く使われた浅草、行書や隷書が多く使われた横浜・中華街、横線の太い明朝体が多く使われている神保町などの街の文字を紹介すると、「街を見てみるとおもしろい」とテーマを締めくくりました。
竹下氏は4つのテーマに触れ終わると、「『硬筆』はシンプルに書くこと、『レタリング』は形づくること、『活版印刷』は組むこと、『街』は観ること」とテーマに潜む行為を解き明かし、それこそが自分と文字の付き合い方であると補足。そして、それは文字・書体を設計することとリンクしていると続けました。
最後に、氏が手がけた「竹」「みんなの文字」が使われている実例が紹介され、「竹」がお菓子のパッケージに多く使われていることに触れると、「この書体はこういう風に使えばいいと認知されているのかなと思います。嬉しいですね」とタイプデザイナーとしての喜びを語り、セッションは幕を下ろしました。
次回は3月14日(月)に掲載します。お楽しみに。
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