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講演レポート:第4回タイプデザインコンペティション特別セミナー「タイプデザイナーの視点」《永原康史「パラメトリック・タイポグラフィ」》

株式会社モリサワは、第4回タイプデザインコンペティション特別セミナー「タイプデザイナーの視点」を2016年2月17日(水)、東京国際フォーラム ホールD7(東京・有楽町)にて開催しました。
このセミナーは、世界各国から創造性あふれる書体を募る「タイプデザインコンペティション 2016」の開催を記念して実施するもので、文字や書体、フォントに興味を持つ多くの方に参加をいただきました。
セミナーには3名のタイプデザイナー、グラフィックデザイナーが登壇し、書体制作のプロセスや取組み方、文字組の考え方について解説しました。

「タイプデザイナーの視点」の3つめのセッションは、永原康史氏による「パラメトリック・タイポグラフィ」。

永原氏は、早くからコンピュータによるデザインに取り組み、タイポグラフィの分野でも独自の研究と実践を重ねているグラフィックデザイナーです。『日本語のデザイン』(美術出版社)や『インフォグラフィックスの潮流』(誠文堂新光社)といった多くの著作も発表しているほか、前後の文字によって自然なつながりに見える文字を表示するフォント「フィンガー」(タイプバンク)をリリースするなど、テクノロジーとデザインを横断する活躍をしています。

セッションは「グラフィックデザインの中でも、コンピュータを使ったデザイン、コンピュータで拡張されたグラフィックデザインの領域が私の専門」と自身の仕事の範囲を定義づけるところから始まり、続いてタイトルである「パラメトリック・タイポグラフィ」という言葉の説明に移りました。

「『パラメトリック』とはパラメーター、日本語では『変数』という言い方をします。何の変数かというとアルゴリズムの変数です。アルゴリズムというのは、「手順」と訳していいでしょう。アルゴリズムとパラメーターというのは、ワンセットで語られることが多い。つまり手順と変数ですね」と話し、料理を例にアルゴリズムはレシピ、パラメーターは塩加減や焼き具合に相当すると解説。そして、アルゴリズムとパラメーターを合わせたものがプログラムであると続けました。

永原氏によれば、タイポグラフィもまたプログラミングであると言います。この詳細については、自身が執筆を担当したモリサワコーポレートサイト内の「文字を組む方法」第一回「組むためのアルゴリズム」を紹介するに留め、話は文字組みとコンピューティングの話へ。

「タイポグラフィとコンピューティングは非常に相性がよく、とても早い時期からプログラミングで文字を組むということが行なわれています」と語り、1950年代の活字の電算鋳造機(ライノタイプ)の写真を映し出しました。続いて、鑽孔テープの写真を見せると、テープの穴のパターンによって記録された文字が鋳造、組版されるプロセスに触れ、鑽孔テープによる組版はいわばプログラミングであると解説を加えました。

続いて取り上げたのはカール・ゲルストナー(Karl Gerstner)による1964年の著作『Designing Programmes』。書籍中面の写真をスクリーンに映すと、「カール・ゲルストナーは、スイススタイルを代表するデザイナーで、スイス・エアーのロゴタイプやシェル石油のCIなどが有名です。この本は“コンピュータでデザインをしましょう”という本ではありません。造形の手順をデザインするという内容です」と概要を語り、形や大きさを変化させていくことで文字や形のバリエーションを展開していく、その手法を紹介しました。

「エアーのロゴも、スイス国旗の十字に変数を与えることによってさまざまな形を作り、そこからロゴの着想を得ています。ゲルストナーは特にコンピュータを使って計算しているわけではありません。発想法、方法をデザインすることでさまざまなデザインを生み出しているのです」

実際にコンピューターのプログラミングを使ったデザインとして紹介されたのが、永原氏が公式デザイナーを務める「あいちトリエンナーレ2016」のシンボルマークデザインです。このシンボルマークは一定した形がなく、ソースのコードによって生成される、パラメトリックなデザインになっています。

「9本のバーの角度と長さと幅に変数を与え、毎回違う形ができるようにしています。毎回違う形ですが強度があるので、同じマークにしか見えない」

デザインしたものは造形のプログラムであり、形は変化するけれども構造は変わらないため、アイデンティティもまた変わらない。それがこのシンボルマークの特徴となっています。この点について、永原氏は「このシンボルマークはゆらぎのある、やわらかいアイデンティティを持っています。人間を見たとき、それぞれの顔は全然違うけれども人間であることはわかりますよね。犬や猫も同じでしょう。アイデンティティとは本来そういうものでなくてはいけない。1mmも違ったらロゴと言えないというように、型にぎゅうぎゅうはめていくと自然じゃないものになってしまいます」と話し、パラメトリックなアプローチゆえに実現可能なデザインの柔軟性を示しました。

永原氏は最後に、エリック・バーンハードソン(Erik Bernhardsson)によるニューラルネットワーク(神経回路)を用いて作られたフォントの話題へ。

その根底には「フォントベクトル」と呼ばれる、人間が文字として認識できる構造があり、文字の形を決定づけているとし、そこから生み出されたアルファベットや、実際には存在しないが漢字と認識できる文字を紹介すると、「人間の脳の延長上で今、文字を理解する試みはコンピュータを使ってこのように行なわれています」と話し、セッションを終えました。

当日の他の講演内容はこちらから:

講演《デヴィッド・バーロー「Restless wind inside a letter box ―レターボックスの中で起こる変化」》

講演《竹下直幸「私と文字」》

●タイプデザインコンペティション 2016の応募要項はこちらから